ブログ

リニューアル

【相談事例】耐震対策のエレベーターリニューアル工事

2024年4月1日

2024 04 01
エレベータ乗場

エレベーターリニューアル耐震対策工事の検討について

各地で大規模な地震が発生しており、地震災害に対して皆さんの関心は高くなっています。

建物に関しては、耐震、免震、制震といった建築構造対策が進歩しており建築物の高層化、大規模化に対してどこまでの安全基準で対策が取られているのかが重要な資産価値の基準になっています。

エレベーターは耐震について国が新築、新設をベースに現在まで3つの指針を制定しており、古い順から98、09、14耐震対策に則ってその年度施工の基準でエレベーターは建物に新設されています。

最新の基準は14耐震対策ですが、基準適応前に完成引き渡された建物のエレベーターについては遡及適応を求められませんので消火器等のように検査更新の度に新基準にすべて取り換えなければならないとはなっていません。

この考え方を『既存不適格』といいます。

エレベーターでは管轄行政に1年に一度 [定期検査報告]を提出しなければなりませんが、その報告書の項目に『既存不適格』といった記載がされます。

ほとんどのエレベーターリニューアルの工事仕様では、行政に申請義務は必要ないので、

この『既存不適格』をリニューアル工事で解消する工事をしなければならないのかといったお問い合わせが多いのですがあくまで努力義務ですので法的拘束力はありません。

今回紹介する事例は地震に対する取り組みに関心のある管理組合様のエレベーターリニューアル工事に関する内容となっています。

相談の経緯、リニューアル工事仕様の提案と協議検討

マンション概要

  • 築46年
  • 104戸
  • 9階建て
  • ロープ式エレベーター
  • 保守管理:メーカー系保守

現地調査とヒアリング

ホームページからお問い合わせくださったのですが、管理会社を介さずにエレベーターリニューアル工事を検討したいと申し出だったので、まずは現地調査と詳しい内容を伺いに訪問いたしました。

調査により、エレベーターについては、2002年に改修工事を実施しており今回は2回目のリニューアルを迎える機種でしたが、築後23年目の改修内容は制御盤と付随する電気関係(電動機、各操作盤、制御ケーブル、各スイッチ、配線関係)となっていてもう一つの主要な機器である巻上機については竣工後のままの状態でした。

45年経過の巻上機となるとさすがに、メンテナンスで性能維持を図るのは限界にきている状況でギアケース各所にオイル漏れが散見されました。

制御盤関係は20年しか程経過していないので問題ないのですが、この古いタイプの巻上機を交換するには既存の制御盤では互換性の問題で流用できませんので制御盤と巻上機をセットで交換する必要性があります。

現状に対する点と、その他必要な工事仕様についてヒアリングしたところ入居者全体的に高齢者が多くなってきているので、エレベーターに身障者仕様(車椅子兼用仕様)を新規設置する旨と地震対策についてどういった仕様内容があるのかについて提案いたしました。

神戸市内で兵庫南部地震を経験された方が多数いらっしゃる事もあって理事長始め地震対策については皆さん大変関心が高い印象を受けました。

エレベーターリニューアル工事の耐震対策工事で検討対象となる仕様が以下の3つとなります。

・地震管制運転 S波、P波

地震管制運転 S波、P波とはエレベーターに地震計を最上部である機械室と最下部であるピット部に設置して地震の大きさ(gal値)により移動中のエレベーターを最寄りの階に着床させて扉を開いて地震のダメージにより途中で閉じこもってしまうリスクを回避する装置。

→新規設置を推奨提案いたしました。

・停電自動着床装置

建物供給電源の送電停止、停電となった時に最寄階に着床、扉を開いて途中階で閉じこもってしまうリスクを回避する装置。

→新規設置を推奨提案いたしました。

・98、09、14耐震対策工事

2桁の数字は施行された年度を表し、その時の大規模地震発生に対しての耐震対策項目が基準になっています。

98耐震対策指針 1995年発生 兵庫県南部地震

09耐震対策指針 2004年発生 新潟県中越地震、2005年千葉県北西部地震

14耐震対策指針 2011年発生 東北地方太平洋沖地震

それぞれの歴史的な背景と指針と基準に対する考え方と対策工事内容を説明、紹介し協議検討の結果、09耐震対策指針を採用する事になりました。

*耐震対策については非常に専門的な要素が多くエレベーター関係従業者でも理解しているケースが少ない内容ですが、エレベーターリニューアル工事の耐震対策について特別に住民説明会を設け理事役員、修繕委員の方達も工事に向けて、ある程度御納得いただく事ができました。

管理組合が主体となって取り組んだエレベーターリニューアル工事

こちらの管理組合理事長が元プラントの設備管理関係の部署経験者で機械系の修繕計画や一般的な設備技術等の知識吸収力が高くて疑問点はすぐに問い合わせてこられる方でした。

修繕委員の方々も6名の構成でしたが、理事長中心に熱心に私の説明を聞いて下さり説明会も質疑応答もかなり充実した内容だったと思います。

今回の数回にわたる、理事会、修繕委員会、住民説明会には管理会社の存在はありませんでした。従来なら理事会には必ず管理会社フロントの担当者が議事、司会されるのですが、理由を聞くとちょうど、このエレベーターリニューアル工事がきっかけで管理会社を変更(リプレイス)しようとしているとの事でした。

管理会社経由でメーカー系保守会社に保守契約していて、今回のリニューアルの件も管理会社から議題を上げてきたが、見積書を提示するだけで管理組合から先のような地震に関する事やその他の細かい質問には答えてもらえず以前に実施した制御盤と電気関係のリニューアル工事金額についても当時としてはかなり高額だった事が発覚し不信感が募る状況だった様子でした。

施工会社選定については見積徴収から仕様決定、比較表作成、検討作業を経て最終決定まで管理組合様と二人三脚で工事着工までの施工管理を完遂する事ができました。

工事打合せ期間から着工時の間に管理会社の交代時期が重なり、管理会社を通じての連絡、調整業務がほとんど出来なかったのですが、滞りなく工事完了できました。

これには、私が作成した【エレベーターリニューアル工事施工要領仕様書】が役に立ちました。

工事概要、仕様、工程表、代金支払いに関する事、工事後の保守契約に関する事、耐震対策についての説明、工事までの管理体制と工事中の管理体制と仮設計画、現場責任者の責務、搬入、搬出作業時の近隣対応等事細かに記載して施工業者にも説明、指示し内容について理解してもらい遵守してもらうように打合せを重ねました。

住民様にはこの施工要領仕様書を工事前の説明会で配布して、説明と質疑応答や御要望を聞きながら工事に臨んだので全くのノークレームで満足度の高いリニューアル工事でした。

明確な目的の見える化と住民への情報公開が重要

一般的にはエレベーターリニューアル工事の目的は部品供給問題でしょう。しかし、きっかけは、管理会社からやエレベーター保守会社から持ち掛けられ、よく分からないままで勧められて発注して工事が施工完了し、高いか安いかもこの工事が本当に必要だったのか?工事仕様、内容もこのマンションが求められる内容が網羅されていたのか?重要な事項が置き去りにされて大切な修繕積立金が消費されているのが現実に起こっています。

今回のケースは、当初は部品供給問題からの理事長が発起人として理事会、修繕委員会が一丸となって私と課題や疑問点をクリアしていく内に、このマンションにとって必要なエレベーターリニューアル仕様は身障者仕様とどこまでの地震対策をこの工事に盛り込むかが明確になった事で本来の管理組合が主体性を持ってそれをサポートするコンサルタントの存在感が発揮できた事例となっています。

現状では、ここまでの専門的知識を持った管理会社フロント担当者はいませんし、エレベーターリニューアル工事にここまで業務を費やす余裕は現実的に無理があります。

かといってエレベーター保守会社に直接問い合わせて検討しようとしても、業界の専門用語やそれぞれの会社特有の仕様名と自社のみの特徴的な強みの表現しかしませんのでどこの保守会社のどの仕様、内容がこのマンションにとってベストなのかチョイスするのは至難の業だと感じます。

管理組合側の立場から第3者の存在として、公平かつ的確にメリット、デメリットを明確に示して、工事に向けて必要な情報は出来るだけ全戸住民に告示しながら工事管理が実現できますので、まずはエレベーターマネージメントまでお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ、御相談はこちらまで