大規模修繕コンサルタントからのエレベーターリニューアル工事の依頼
今回もエレベーター会社在職時に経験した、現在のエレベーターコンサルタントを目指すきっかけとなった事例の紹介となります。
エレベーターの保守やリニューアルについてのお問い合わせのほとんどは、管理会社や管理組合理事長、修繕委員、個人オーナー、不動産会社(法人オーナー)ですが、たまに設計事務所や大規模修繕工事の修繕設計コンサルタント会社からも引き合いがあります。
大体、2回目くらいの大規模修繕工事が終わったころに、次はエレベーターリニューアル検討のタイミングとなるのですが、その流れでエレベーターリニューアル工事についても、大規模修繕コンサルタントさんがコンサルティングの依頼を受けたのでしょう。
お問い合わせのマンションは保守契約先だったので、お任せ、標準的な工事仕様で見積もりを出してほしいといった依頼内容でした。
マンション概要
- 築30年
- 地上10階
- 110戸
- 和歌山県下
- 郊外型のシリーズ分譲マンション
- ロープ式エレベーター
改めて、現場調査実施の上、A、B、C案の3種類のバリエーション見積もりを提示し、それぞれの仕様の特徴、比較、金額内訳等をひととおり説明し、後日、理事会で検討し結果を連絡いただけるとの事でした。
おそらく、その間に設置製造会社(メーカー系保守会社)や他の独立系保守会社数社からも見積もりを取得して、私が出した見積仕様をベースに比較するのだろうと推測できました。
現状分析からのリニューアル工事仕様の提案
2か月くらい経過した頃、修繕コンサルタントから連絡があり「管理組合理事会で検討した結果、御社にてリニューアル工事が決定した」とのことで、契約、実施に向けて進めていきたいとの事でした。
私が提案した見積仕様3パターンのオプション仕様バリエーションについて
(いずれも巻上機、制御盤等の基本主要機器含む)
Aプラン
- 戸開走行保護装置
- 09耐震対策
- 地震管制、停電管制運転
- 身障者仕様
- かご扉、全階乗場扉ローラー、連動ロープ
- LED天井に取替
- かご内壁、床 意匠シート貼り
- 全階乗場三方枠、扉 意匠シート貼り
Bプラン
- 戸開走行保護装置
- 98耐震
- 地震管制、停電管制運転
- かご扉、全階乗場扉ローラー、連動ロープ
- LED天井に取替
- かご内壁、床 意匠シート貼り
Cプラン
- 98耐震
- 地震管制、停電管制運転
- かご扉、全階乗場扉ローラー、連動ロープ
- 天井照明LED化
*価格対比はA10:B8:C7
3仕様の共通項は主要機器である製造から30年経過した巻上機と部品供給停止した基板の制御盤を一式交換する事が至上命題であるのと、20年以上保守管理した実績から扉周りの駆動、連動系ローラー、ドアワイヤーを交換する事については最もプライオリティを高く設定している点です。
リニューアルパッケージ標準仕様には扉関係については、どこのエレベーター会社もオプション扱いとなっており、見過ごされやすいのですが、エレベーター不具合原因の60~80%は扉周りの関係部品によるものです。
最もリニューアル工事であってはならない事の一つに、せっかく高額で長期間の工事を実施して交換済、既設流用にかかわらず、ものの数か月・数週間で不具合故障を発生させる事です。
リニューアル工事なので100%新品に入れ替わるわけではありませんが、コストバランスと現場エレベーターの状態、環境を分析判断してベストな仕様を提案する事が最優先されるべきです。
今回の3仕様唯一オプションで共通して付加したのが「かご扉、全階乗場扉ローラー、連動ロープ」でした。
材料コストは高くないのですが、一つ一つローラーをバラして取替、連結するワイヤーを軌道上にセットし端部を固定させる現場作業工程では人工ウェイトの高い内容です。
その他は、既存不適格解消だったり、見栄え向上させる意匠シート貼と天井照明をLED付の一体型天井に取り付ける(吊り天井)か、天井器具はそのままで中の照明部分をLEDの電球に取り換えるかの選択肢としました。
もちろん、A案が一番お勧めの意図を込めた設定にしたのですが、修繕コンサルがくみ取ってくれた様で、A案採用となりました。
ハイセンスなエレベーター内空間と合理的なリニューアル仕様提案
かご内のシート模様品番選びは、さすが、建築士とあって妥協を許さない検討作業となりました。
私も実務経験はないもののインテリアコーディネーター資格者として建物外壁、玄関カラーイメージ、エレベーターホール内壁の素材、カラーと各住戸の玄関扉のカラーから総合的に統一感を持たせた品番を提案したりしましたが、実際のかご内の明るさ、照度ではどのように見えるのかと問われ、そこまでは想定していなかったことに気付きました。
そこで、LED照明の照度と色温度(昼光色6500K、昼白色5000k、白色4200k、温白色3500k、電球色2800k)にそれぞれシートを照らし合わせて、可能な限り色温度の低い3000kで落ち着きのあるシックで尚且つ家に帰ってきてホッとするような安堵感を感じ取れる品番を設定提案し、承認となりました。
エレベーターかご内といった非常に限られた狭い空間ですが、数秒間でもそういった印象を与えられるカラーコーディネートはなかなかできなかったと修繕コンサルタントの設計士からお褒めいただきました。
利便性向上の身障者仕様については、各階乗場、かご内専用操作盤、マルチビームドアセンサー、両側手摺、背面鏡がセットとなりますが、現状それほど車椅子の利用は多くなくどちらかと言うと杖を使われる利用者が多い事から手摺の設置を両側に付けるのではなく片側1面のみとする事により出入口からかご内幅スペースが確保でき、乗り降りしやすいと提案したところ、採用となりました。
コロナ禍でのエレベーターリニューアル工事監理と行政への申請業務
通常着工前の1〜2か月間に全住民対象としたエレベーターリニューアル工事説明会を開催し、今回の工事の目的と工事期間のエレベーター使用不可、工事期間中の共用部ストックヤード(材料置き場)の連絡周知についての最終告知の場を設けました。
どうしても工事期間中にエレベーター利用が必要な場合は、自己責任で別住居への移動を認識してもらうのですが、説明会用の説明資料も作成完了し2〜3日前にコロナ感染者拡大の第〇波発令となり、大人数での集会、集合は控える(実質禁止)となりました。
今回は搬入搬出を大型クレーン車で行うのでクレーン車と大型トラック作業占有スペースを敷地内駐車場とする計画だったので、その内容とその間の通行経路についてであったり、隣敷地内を通行する為の経路の説明だったりと確実に伝えなければならない内容があったのですが、理事会・修繕コンサルと協議の結果、説明会は中止となり、そのかわり、上記連絡事項を詳細に分かりやすく記載した説明資料を作成して、全戸配布する事になりました。
出来るだけ多くの写真、イラストを入れてすぐに認識できるような資料を作成配布し、当日も大きなトラブルなく工事完了する事ができました。
それと並行して、現場住所が和歌山市内ではなく管轄が和歌山県となる為、今回の工事に工事報告となる第25条報告が必要でした。
既設の竣工当時の昇降機申請副本と今回新しく交換する対比表や、荷重比較、全体工事仕様等をまとめた資料の提出が必要であったりと、工事着工前2週間でその必要性に気付いたのでしたが、何とか資料をまとめ上げ間に合わすことができました。
管理組合とエレベーター工事業者とのパイプ役の存在
今回の工事については最初から最後の完了時まで、管理会社の存在はありませんでした。
今まで管理会社が必要だった工事説明会の告知、開催企画、理事会との必要事項の連絡、調整業務も修繕コンサルが取り計らっていましたので意思決定も早く、スムーズに進行できたのではないかと感じました。
修繕コンサル担当者もキャリアとしては新築工事の設計者だったり、施工管理だったりとやはりエレベーターについては詳しくありません。
あくまで管理組合理事長との連絡、調整役なのですが、管理会社と違ってこの業務に特化できるのでこちらにとってもスピーディな対応で非常にやりやすかったのでした。
今回のように修繕コンサルタント会社が、エレベーターリニューアル工事の業者選定、工事監理等のコンサルティング業務をするケースは少ないですが、それぞれが連携すれば、これほど各々が満足度、完成度の高い業務が可能なのだと感じる事ができ、こういった仕事に対して強く興味関心をもったプロジェクト経験でした。
ここまで積極的に工事提案ができるエレベーター会社は少ないのと、日頃の業務で手一杯の管理会社フロント担当では、ここまで満足度の高いリニューアル工事の実現は難しいのが現実です。
ぜひ、エレベーターリニューアル工事着手する前にエレベーターマネージメントまでご相談ください。