今回は、本文事例集Case3について詳しく紹介したいと思います。
疑問から問い合わせまで
住戸数30そこそこで5階建てですが、エレベーターは1階、3階、5階と奇数階にしか停止箇所がないマンションの油圧エレベーター改修工事についての相談事例です。
大手の管理会社が大手メーカー系保守会社に委託している管理組合理事会で部品供給問題からエレベーターリニューアル検討の議事内容が提示されました。相談者は過去に理事長経験者ですが、現在は理事役員にも該当していません。ある日理事会議事録の回覧を見られて上記議題のエレベーター工事について疑問を持たれ、私まで問い合わせされました。
油圧エレベーター撤去新設してロープ式エレベーター入替工事の検討・工事見積金額
A案:¥23,000,000-
B案:¥19,000,000-
安い方のB案でも¥19,000,000- とかなり高額な印象であり、議事録には別途添付資料としてメーカー系保守会社の提案資料がありましたが、専門用語、複雑で細かすぎてそれぞれどういった違いがあるのか等分からなかったとの事。
現役理事の方、理事長に聞いても詳細は分からないが、とにかく部品が無くなるからそれまでに工事をしなければならないようだ。次の理事会でやる方向性を固めて総会にかけるようになりそうだと聞かれたそうです。
そんな、曖昧な認識で管理会社、エレベーター業者からの提示をそのまま受け入れていいのか?と危機感を持たれたのが始まりなのですが、後に管理組合理事会に修繕委員設立を提案され自ら委員長に立候補されました。
検証、検討作業
まずは、現地調査を実施し特に1階のエレベーター機械室内の油圧ユニット、制御盤を確認、かご内、各乗り場を検証後、直近数か月の点検作業報告書、定期検査報告書の閲覧と竣工当時の完成図書にエレベーター設置図面が保管されてたのでそれら一式確認、今後の方向性について提案いたしました。
- 油圧式をロープ式に入替なくても油圧式のままで制御リニューアルが可能
- 油圧制御リニューアルならコストはC案の約半分以下にコストダウン可能
- 工事期間もロープ式入替なら1.5か月~2か月エレベーター停止期間必要だが、油圧制御リニューアルなら10日間程度で工事完了 等
その時に、修繕委員長の方と理事役員の方から以下ような質問がありました。
“リニューアル工事したら、最新基準の安全装置を法律的に付けなければならない。”
“ロープ式に入れ替えたら最新式の基準になるから法律的に安全性の高いエレベーターに認定される。
“油圧式は将来無くなるので、いずれロープ式に入れ替えなければならなくなる。”
“油圧式は戸開走行保護装置が付かないから安全性で劣る“ 等
そのご質問を受けて以下のように返答いたしました。
- リニューアル工事のほとんどの改修内容では法律的な義務を課されることはありません。
- ロープ式に入れ替えると行政に確認申請必要となるので新築同様のエレベーター仕様となり最新式となります。油圧式と構造が違うので安全性について行政が何らかの認定する事はありません。
- 油圧式が近い将来に全く無くなってしまう事は現状考えにくいと思います。(2022年国内エレベーター設置台数780,000台の内、油圧式エレベーターは65,000台)
こういったご提案から質疑を受けて、エレベーター保守会社に詳しいヒアリングを行うため、理事会にエレベーター保守会社を招致してプレゼンテーションと説明会を実施してもらいました。その上で再度A、B案の違いについてヒアリング、十分理解できるように私も解説を加えました。
A案
身障者仕様新規設置
(車椅子の方が介助人なくても利用しやすいように、乗場押釦の操作盤設置高さが一般用より下の位置に専用操作盤を設ける、ドアに光電管センサーを設けて障害物を検知したらドアが閉まりかけても反転してドアオープンとなり車椅子にドアが接触しないようにする、かご内の側壁に乗場同様の低い位置に専用の操作盤を設ける、かご内正面壁に専用の鏡設置し、かごが目的階に到着したらかごの出入口背面を鏡で視認しバックで退出する、かご内に入退出し易いように壁両側に進行方向に手すり設置)
B案
コストを最大限抑えた仕様、入替工事の標準仕様で必要最低限の内容との事であったが、今までの油圧式エレベーターに必要だった1階のエレベーター機械室内の不必要となった油圧ユニット、制御盤は残置となっていました。
ユニット内、機械室から昇降路内までの配管中の廃油はすべて取り除くとはありましたが、せっかく大掛かりな工事をして有効利用できるスペースが得られるのと、この機会に廃棄重量物を撤去してしまわないと後々何らかの機会にこの機器を撤去しようとしても単独作業ではかなり高額な費用となる為、機械室内廃材機器の撤去搬出についてはこのリニューアル工事の時にするべきと提言いたしました。
最新のロープ式に撤去新設入替するか、
油圧式のままで主要機器の交換工事をするか
総合的に検討した結果、理事会で油圧制御リニューアルを採用となり臨時総会で最終決議、承認されました。
やはり、金額的な要因が一番大きかったと思われます。
安全性が高まるとか最新式の基準にグレードアップするのは好ましい事だが、費用対効果として、総戸数に対する修繕積立金の拠出割合と現在まで油圧式エレベーターを使用していてそれ程不都合さを感じなかった点等、管理組合内で十分議論できるようにロープ式と油圧式の構造の違いや仕様比較表、それぞれのメリットとデメリットを分かりやすく資料作成し発表したので皆さん検討結果については納得した選択ができたと好評いただきました。
追加補足事項
実は、理事会決議で油圧制御リニューアルで方向性が決定した際に管理会社フロント担当者からリニューアル後の保守契約についての打診がありました。
現状では、保守契約は管理会社経由のメーカー系保守会社だったが、当初推奨のメーカー系保守会社案のロープ式入替提案が否決されたので、必然的に工事後の保守会社は油圧制御リニューアル施工会社になります。
この流れからだと管理会社がその施工会社と保守点検業務を下請けにして継続するのですが、そうではなく、直接管理組合と施工会社が点検契約を締結してエレベーター保守点検業務は管理委託業務からは外れるといった内容でした。
理由ははっきりとは分かりませんが、管理会社として当初推薦していたメーカー系保守会社提案が採用されずに管理組合が独自に検討して決定したのだから今後の保守業務については関与しません・・・?ということなのでしょうか。
当然、リニューアル工事後の保守についても保守見積もり、契約内容、仕様や緊急体制や実績等についてもプレゼンしてもらい理事会で問題ないと判断したのですが、個人的に何か腑に落ちないと感じました。
度々の理事会でも私のエレベーターについての説明を管理会社フロントの方も一緒に聞かれていましたが、正直なところエレベーターの専門知識についてはほとんど持たれていませんでした。
当然管理会社のフロントとなると基本的な設備全般の知識は持たれていますが、エレベーターの改修工事についてここまでの詳細な理解はないのが通常です。
ですので、管理会社からこういった選択肢、可能性について提案したり意見を述べたりする事は今までの私の経験ではありません。実情は各専門業者からの提案内容をそのまま理事会に議題として上げて、詳しい質問が組合からあると専門業者に繋いでといったところかと思います。
管理会社が今回のような態度に出るケースは少なくありませんが、こういた事態も想定して直接契約となっても問題ないエレベーター会社を選定しました。
マンション管理士、管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士資格取得者として、管理全般の見解からも管理組合と各専門業者、管理会社との潤滑油のような存在としてマンション管理維持保全運営に携われますので、よりよい関係性を維持しながら管理運営継続できる存在として役立てていきたいと思います。
リニューアル工事を控えた油圧エレベーター所有者様へ
油圧エレベーターのリニューアル工事は高額だがロープ式にしなければならないのか?
皆さんお住いのマンションのエレベーターはロープ式ですか?それとも油圧式ですが?
唐突に聞かれても今まで意識したことがないから分からないと思います。
エレベーターかご内とか乗場操作盤もどちらも変わりはありません。
乗った感じでは油圧式は動き出す時に若干フワフワした乗り心地がしますが、ロープ式ではそういった感触はしません。でも普段乗り慣れているので違いを認識する事はあまり無いでしょう。
見分け方は1階のエレベーター乗場の隣周辺に“エレベーター機械室”とかかれた鉄製扉があれば油圧式です。そういった扉もなくフワフワした乗り心地もなければほぼロープ式です。
今、この油圧式エレベーターの所有者様、管理組合様からの相談が急増しています。
2, 3年前からですが、主にメーカー系保守会社から、保守部品がもう近々生産が打ち切られるからこの機会にとリニューアル工事の必要性について説明があって、見積提示を受けるケースが増えています。
見積金額は数千万円!!!
なぜこれ程までに高額なのか!?
と聞くとほぼすべてを入れ替えて、油圧式を最新のロープ式にするからだと。
油圧式はこれから将来無くなっていくし、最新の安全基準のエレベーターになるので快適性、利便性もあがる・・・といった内容を一通り聞くことになります。そりゃ、新しくなるのは分かるけど費用が数千万円・・・!?そこまでなぜしなければならないのか・・・?
ここで、本当にそうなのか?と疑問を持たれる方は、いろいろと検証されるのですが、ロープ式に入れ替えて安全性、利便性もあがるけど、それにしても金額も途方もない額だし、工事期間約1か月半~2か月間はエレベーター使えないし、かなり大変な状況になる。そういった状況にもかかわらず詳しい情報は手に入りにくい・・・。
専門知識もなく、判断材料も少なすぎるし、どこに相談すればいいか分からない。
とりあえず、ネット検索してそれらしいエレベーターメーカー、エレベーター保守会社に問い合わせるが・・・。
ほとんどの方が疑問と不安をいっぱい抱えながら、上記のような経緯で、最終的にエレベーター専門のコンサルティングを行っている私に相談されています。専門知識・経験を持たない方が専門知識・経験を持たない管理組合とやりとりして、何となくで決定している現状が多くみられます。
安心して安全に生活するために必要なエレベーター。
よくわからないまま重要な決定を進めず、きちんと理解し納得した上で導入してほしい。
どんな些細な事でもかまいませんので、まずはご相談ください。