既設エレベーターへの防災対策支援措置(エレベーター防災対策改修補助金)
令和6年1月9日の国土交通省プレスリリースに「エレベーターへの戸開走行保護装置の設置率は35%」のタイトルで全国の既設エレベーターを対象とした戸開走行保護装置という安全装置の設置台数、設置率調査の結果を公表しています。(国土交通省ページ:エレベーターへの戸開走行保護装置の設置率は35%~戸開走行保護装置の設置状況を調査~)
2006年と2012年の2度発生したエレベーター事故から、国はこの戸開走行保護装置の設置を新築建物には2009年に設置義務と法制度化しましたが、既設エレベーターについては既存不適格扱いとし、いわゆる努力目標として大型改修工事の機会にこの装置を出来るだけ付けるよう検討しなさいと啓蒙しています。
その支援措置として地震の耐震対策工事と合わせた工事とする等、その他諸条件を満たせば民間のエレベーター所有者でも補助対象として規定上限範囲内で補助が受けられるのでエレベーターが設置している管轄の地方公共団体に問い合わせてくださいと記載されています。
今回はちょうど10年前に私がエレベーター人身事故の当事者だった会社で官公庁現場を対象に国から地方公共団体への交付金を使用して事故機と同機種のエレベーターに戸開走行保護装置を設置していくプロジェクトの受注から各諸官庁への手続き、現場管理、社内製作指揮の経験事例を紹介します。
公共建築物安全性確保の最優先事業として地方官庁へ補助推進
国の特別予算を使用しての事業となる為、会社としても急ピッチで戸開走行保護装置の製造開発が進み、国土交通省から認定された戸開走行保護装置設置パッケージが商品化されました。認定された途端、設置現場所有管轄の諸官庁施設管理関連部署や契約課から随意契約の案内や手続き要請、工程、進行に関するあらゆる対応を求められました。
予算化された以上、年度内で必ず工事完了し消化しなければなりませんので現場調査、打ち合わせヒアリングから工事仕様作成、見積提出、説明を限られた期間でこなしていく状況でした。
工事の最大の目的はこの戸開走行保護装置の取り付けのはずなのですが、この頃から地震対策や耐震工事も合わせて契約仕様に盛り込まなければならないとされ、社内の設計部門や工事部門はかなり逼迫した過密スケジュールで進行しなければなりませんでした。
大阪府内のある地方公共団体所有の福祉会館に事故機同機種エレベーターの防災対策事業として戸開走行保護装置と現行基準の耐震対策工事を随意契約で受注し、総合監督として携わる事になりましたので市から府に対しての補助申請に施工業者として当時補助申請の窓口だった大阪府公共建築危機管理室?(10年前の為、正式な部署名は記憶に残っていませんでした。)に詳細手続きに関する打ち合わせに訪問したのですが、当時は府の担当者もエレベーターについて殆ど知識がなく、何度も申請書類の訂正、追加書類の要請、出し直し等施設所有者の福祉会館担当者と大阪府公共建築危機管理室担当者の双方が基本的な工事に関する意思疎通、共通認識が無かったので大変な苦労を経験したのを今でも覚えています。
補助金申請に必要な事項
今現在の補助金申請の条件として以下の工事仕様が補助対象となるので、改修工事にその仕様を盛り込まなければなりません。
- 地震時管制運転装置の設置
- 主要機器の耐震補強措置
- 戸開走行保護装置の設置
- 釣合い重りの脱落防止措置
- 主要な支持部の耐震化
1の地震時管制運転装置と3の戸開走行保護装置の設置については新たに新規設置するので申請書に記載する工事内訳明細に計上記載し易いのですが、2主要機器の耐震補強措置、4,釣合い重りの脱落防止措置、主要な支持部の耐震化については、既存の構造部に関する耐震設計を洗い出して、構造計算、荷重計算の上、新基準に照らし合わせてどういった箇所にそういった耐震補強を施工するのかといった非常に緻密な設計作業と現場特有の構造状況による施工方法によって単純な打ち合わせ明細に金額を振り分ける作業や施工箇所説明、補強根拠等の明記等膨大な図面と設計資料に対しての説明に追われました。当時は既設エレベーターの耐震対策工事等は全くと言っていいほど実績がなく、主目的の戸開走行保護装置の設置工事よりも数倍時間と労力が必要でした。
現在は、そこまでの労力の必要はなくある程度の基本設計データはメーカーなら持ち合わせているので問題ないですが、竣工当時の昇降機確認申請の副本は必須となるのでまず保管されているかの確認は必ずしてください。
本来のリニューアル工事の目的と補助金対象条件マッチングが重要
数年前からエレベーターの補助金制度は存在していましたが、それほど補助金利用が多くないのはなぜなのか?
ひとつは、補助事業対象に一定の要件がある点です。
- 3大都市圏、人口5万人以上の市、地方公共団体が指定する区域
- 特定建築物、延べ1000㎡以上、長期修繕計画が作成されている
- 構造躯体が地震に対して安全な構造である事
- 改修箇所は既存不適格解消となる事。
さらに、補助金額の対象箇所と上限制限があるのですが、あくまで補助金は上記の1~5までの補助対象仕様範囲からしか出ません。リニューアル工事ではその他の保全、劣化箇所も多数ありますが対象外となる部分もありますのでリニューアル工事内容によっては補助金額が想定より少ないケースもあり得ます。
上限限度金額は1台950万円と令和4年度に拡充されましたが、対象工事費の23%となるのでやはり工事内容とその内訳を照合させて所有エレベーターのリニューアル目的に沿う内容で補助対象箇所が過不足なくカバーできているのかが最大のポイントになります。
もう一つが、国家予算となるので年度内に契約、工事完了させなければなりませんので納期対応可能なエレベーター施工業者確保が必要となります。
中には発注から2年後の着工となるくらいリニューアル市況が逼迫しているので業者選定にも最新の注意が必要です。
一般の民間人のエレベーター所有者では上記の要件をクリア出来そうかなんて分からない方が殆どだと思います。
補助金制度の起源、発足時から実際の交付手続き経験のあるエレベーター専門のコンサルタントに一度相談されてみてはいかがでしょうか?