各メーカーによって、仕様、工事範囲から複数パッケージに分類
基本的に、国内では大手5大メーカーが約90%の新設シェアを占めています。これに関しては数十年来大きな変動がないのですが、既設エレベーターの保守契約ではこの10年でメーカー系列以外の保守会社の契約占有率が大きくなっています。10年前までは独立系シェアは全体の数パーセントだったのが今では恐らく、15~20%程度まで大きく拡大していると推測されます。
大手メーカーではこの既設エレベーターシェアのリニューアル市場に営業展開を促進させており、自社の保守契約機種を年代別に選別し、機種別の市場構成と部品製造工程、新規開発工程を踏まえて、最も効率的なタイミングで部品供給停止の時期を設定計画し、リニューアル市場の売り上げ営業戦略を立てていきます。
その流れに便乗するがごとく、独立系保守会社もリニューアル市場に注力するようになり、主に価格面での営業攻勢をかけているのが現在の市場構成となっています。
メーカー系保守会社では、こういった独立系のリニューアル市場の価格による営業攻勢に対抗せざる得なく、仕様面、工程面、意匠面から、顧客要求を満たせるリニューアル商品をパッケージ化する事から、顧客ニーズを取り込み、メーカー独自の魅力的なリニューアル営業展開が図られています。
リニューアル工事仕様の分類による見積プラン
築25~30年経過のリニューアル検討時期に入ったエレベーターでよく耳にするのが、“このリニューアル工事を機に既存不適格を無くしたい”といった内容です。
毎年1回の定期検査報告の項目で、“要是正”と記載された隣の欄に“既存不適格”と表示されて、この項目は従来通り利用しても問題ないですと説明を受けられていますが、せっかく主要機器を一式交換するのだから最新の基準に準拠したエレベーターにしたいといった考え方になります。
大きくは、既存不適格には3つの項目があり、
1,戸開走行保護装置を新規設置する
2,耐震対策工事を最新式の基準に準拠させる(14耐震対策工事)
3,地震管制運転S、P波と停電時自動着床装置を新規設置する
まず、1の戸開走行保護装置については、2009年施行の基準でエレベーターの挟まれ事故を防止する装置で、制御とブレーキの2重化が図られ国土交通省の認定製品であり、既設エレベーターに対しても推奨している事から、安全性と信頼性の向上は格段に上がる仕様となります。
*戸開走行保護装置の全国設置率は既存、新規含めて全体で34.6%
(令和4年度集計 国土交通省 戸開走行保護装置設置状況調査)
2の耐震対策の最新基準は2014年施行された14耐震と言われる仕様です。
その前が、先程の戸開走行保護装置と同じ2009年施行でしたが、さらに基準が引き上げられ、対象となるエレベーターを構成する主要構造物である、マシンビーム、ガイドレール、レールブラケット、カウンターケース、おもり等の荷重計算、安全率の証明、素材とその製品の規格の明確化について、既存のデータと現在の基準を照合させて数値上、上回る事を求められています。したがって、竣工当時の構造的なデータからの検証が必要となるので、既存の製造設置したメーカーでしか、そういった証明検証は難しく、現実的には独立系保守会社では見積対応不可となります。
3については、地震感知器をエレベーター機械室と地下部ピットに設置し、非常用のエレベーター専用バッテリーを繋げて管制運転のプログラミングをすれば設置できるので独立系保守会社でも対応可能です。
メーカー系保守会社はこの最新の基準によるリニューアル工事を一つのパッケージとして顧客に、より高い安全性と資産価値向上に応える仕様として推奨し営業展開しています。
リニューアル工程、仮設工事面の仕様分類による見積プラン
この分類については、メーカー系保守会社のみの見積対応内容となります。
リニューアル工事でかならず、問題となるのが工事期間中の24時間連続してエレベーター利用停止で、ご年配の方、車椅子ご利用の方、ベビーカーご利用の方の期間中の移動制約についてです。
階段での移動が無理な方は、仮住まいを検討してもらうか、最近はエレベーター工事の住民サポートを専門に取り扱う業者があるので、利用検討をするしかないのですが、メーカー系保守会社では、機種にもよるのですが、例えば工事中の日中は利用不可ですが、工事終了の夕方から明くる日の朝まで仮設制御盤、巻上機でエレベーターを利用できる、“時間帯停止“を可能とするプランを設定しています。
これについては、既設機器との互換性等の問題があるのでメーカー以外の機器でのリニューアル工事では対応不可となります。
リニューアル意匠面仕様の分類による見積プラン
劣化した機器の交換、安全性、利便性向上の工事目的とは違いますが、意匠面、いわゆる見栄え、見た目を向上させる仕様内容になりますが、先の機器交換などの工事と違い、普段利用者が目に触れないエレベーター機械室、昇降路内の工事ではなく、エレベーターかご内、乗場の扉関係についてパネルの取替か、今風デザイン柄のダイノックシート貼工事や、かご内天井照明のデザインをLEDにした上で、ファッション性の高い吊天井をはめこんだ天井一式交換が意匠面仕様による見積プランとして設定しています。
エレベーター室内となるかごを丸ごと交換するパターンとかごのフレーム骨組は残してその壁となるパネルのみを交換するパターン、フレームもパネルも流用して既存壁にダイノックシートを貼り、巾木や出入口柱部等のSUS、アルミ部分については特殊溶剤での洗浄とする3種類のパターンがありますが、一般的に多く独立系が多く採用するのが、最後の既存壁にダイノックシートを貼るパターンとなります。
30年経過して、一番身近に感じるかごを交換した方がいいのではないのかと考えられる方が案外多いので、制御盤+巻上機+かご+乗場扉とガイドレールとマシンビームを交換対象とする“準撤去リニューアル”といったカテゴリーでメーカー系保守会社は商品構成、展開しています。
メーカーリニューアルはブランドイメージからの信頼性、安心感から
10年程前になりますが、私がメーカーの保守営業に従事していた頃、今まで保守契約していたオーナーが物件を手放すので解約になり、新しいオーナーと新規に契約を結ばなければならないケースでは、ほぼ100%の確率で新オーナーと契約を結んで、保守契約としては継続するケースがほとんどでしたが、独立系の場合は旧オーナーと解約後、新オーナーとの契約締結とはならない、完全解約が約5割です。
今の状況はまた違っているのかもしれませんが、要はそれくらいメーカーの信頼度、安心感、契約継続率は高いという事です。
値段は高くてもメーカーにまかせるのがベストであるといった考えは、今でも多いのではないでしょうか。
各メーカーには自社製品に対するメーカー思想といったものがあります。
ドア開閉、起動、着床の仕方から操作盤、押釦の形状に至るまでそれぞれ独自の開発思想があり、こだわりがあるのです。だから、ビス一本とて、自社の工場から出荷されたものしか使用しません。例えビスが足らなくて、今日にでも引渡させなければならない状況で、目の前にホームセンターがあっても、工場からの納品を待つのです。
操作盤に関しては一番感じやすいかと思いますが、独立系のリニューアルした操作盤は当然どのメーカーでも整合しやすい、無難な万人受けするデザインと言えます。
メーカー系の操作盤は言葉では言い表すのは難しいですが、しっくり感というか、高級感とかではないのですが収まりがいい感じがするのです。
理屈ではなく、なんとなく、メーカーがいいといったニュアンスに自家用車に対する感情に近いものはあるような気がしますので紹介します。
昔から私は自家用車の買い替えは必ず、新車にすると決めています。新車が高いのは分かっていますが、一度買った車は丁寧に整備と洗車をして長く乗るのです。車が趣味で好きな方は中古車を短期間で乗換えたり、最近は残価設定クレジットで新車をローンで購入し、数年で売ることを前提に買い替えていく方が増えています。きれいな新車を次々に乗り換えられるのはメリットも多く、素晴らしいカーライフを満喫できるかと思いますが、私はキャッシュで購入した車を長く所有していきたいのです。理屈ではないので理由はありません。
独立系エレベーター保守会社の技術力、保守体制ネットワークも充実しメーカー系と遜色ないレベルまで向上してきていますが、メーカー神話、ブランド力といった形、言葉では言い表せない潜在的な意思決定力がそこにはあります。
こういった具体性のない話ではコンサルタントの存在は必要ないのかもしれませんが、あらゆる事を総合的に分析してできるだけ明確な判断材料の提供のお手伝いを目指していきたいと考えています。