エレベーター付中古マンション転売取得後のトラブル事例について
ここ数年、都心部不動産物件所有の変動が激しさを増しています。新築物件の完成引き渡しが進んでいますが、建築コストの上昇からミドルクラスの賃貸料価格帯が少なくなった事から、家賃相場の比較的低い中古物件を取得しリノベーションして民泊需要をターゲットにしたり、海外不動産投資家による築年数の高い中古マンションを低価格で取得するケースが多くなってきています。彼らは投資運用が目的なので徹底的なランニングコスト削減を最重要視し運用利益を創出する為、保全に対するコスト意識に目が向いていない気がします。そういった物件での私の体験事例を紹介したいと思います。
市内の築30年、40戸程度の賃貸マンションでの事例
物件売買から、旧オーナーからの紹介より新オーナーとエレベーター保守契約の締結について、契約引継ぎについて打ち合わせがあり、保守契約の仕様について、一通りの説明と旧オーナーと同等仕様とさらに安全性をグレードアップした仕様の見積の検討について選択をお願いいたところ、旧オーナー仕様の従来ベースを選択されました。この件について特段問題はなかったのですが、保全管理の現状についての説明では保全に関する認識、考え方の相違が浮き彫りとなったのでした。
まず、旧オーナーはかなり以前から物件売却について検討視野に入れて最低限の部品交換しか実施されませんでした。所謂、定期検査に引っかかる項目、非常用のバッテリー、ブレーキ関係のリレーについては耐用年数が超過すると“要是正”、“要経過観察”となり、定期検査報告書に記載された報告となるのでこれに関しては実施されましたが、先を見越した提案となる予防保全については消極的でした。
しばしば、停止故障が発生しその都度、緊急対応にて復旧していたのですが、幸いな事に在庫のある少額部品だったのでエレベーターの停止時間も少なく、大きなインパクトはなかった様子でした。
その事について、予防保全に関しての状況説明、保全計画について新オーナーに理解を求めましたが、物件取得時のイニシャルコストしか予算がなく、保守管理に関するランニングコストについては全く意識がない印象をその時受けました。
すでに、症状として発生している乗場表示の文字欠けですら、エレベーターが動いているからと先送りとなりました。(かご位置表示は定期検査項目)
しばらく経ったある日、住民様からエレベーターの扉の開閉がおかしい、扉が閉まりきらないので動かないといった連絡があったので技術者が現地対応すると、ドアパネルを左右開閉時に回転させているローラーの縁が剥がれて、凸凹になりスムーズに回転しなくなっている状況でした。
在庫があれば、今までのように緊急対応するのですが、このタイプのローラーは在庫切れの状況の為、製造元から調達しなければならないので、契約先オーナーに状況説明報告と緊急工事のローラー見積提案をしました。
もちろん、以前からローラー劣化について見積提案は予防保全として、していたのですが、壊れている箇所のみの交換しか取り組まれませんでした。理由は全数(7階建てなので7か所+かご扉1か所の8か所)の金額はとても採算が合わないとの返答でした。
在庫がない以上、早急に手配をかけて入荷次第取替を実施しないと完全にローラーが動かなくなりエレベーター利用停止となるので、減数した箇所の発注をいただいて大至急の手配要請をかけました。
その数日後のある祝日の夜間にオーナーから連絡があり、エレベーターが動かなくなっているので対応してほしいと通報がありました。
やはり、ローラーが限界を超えてしまったか・・・と対応した技術員に現場状況を聞くと、停止原因はローラーではなく、制御盤内の制御インバーターであるとの報告でした。
制御インバーターは制御関係の一番主要な部品であり、汎用は効かなく、その設置現場のエレベーターに個別に設定したオーダー機器なので在庫も当然ないので、各方面緊急に貸与してもられる依頼要請をかけましたが、休日夜間という事もあり、その日は終夜停止となりました。
オーナーにもその旨連絡し、後日詳細対応について連絡する事となりましたが、明くる日からオーナーに直接住民様からクレームが殺到したのでした。恐らく、旧オーナーからの保全の取り組みからの積もり積もった不満が、新オーナーへのシワ寄せとなり、不満が膨れ上がったのだと思われます。
結局、即対応可能なインバーターは無く、製造元へ手配要請する事になり高額な修理代金を直接オーナーと製造元との契約により特別最短ルート手配で1週間後復旧作業となりました。
行き過ぎたコスト優先主義は過大な代償となり結果、不利益を被る
この事例のエレベーターはメーカーから一部の部品供給終了の公表機種でした。本来はリニューアル工事の提案がベストではあったのですが、トラブル以前では全くそういった認識はなかったように思われます。
こうなってしまった以上、何よりも優先してエレベーターを即刻稼働させなければなりません。選択肢がない中次々と検討の余地なしで問題解決していく事となりました。
インバーター単体を発注するなら、リニューアル一式での改修工事にした方が結果全体コストは低いに決まっています。
しかも、その他のあらゆる箇所も経年劣化しているので、今後も違う部位で不具合発生の可能性は非常に高いと言えます。
“なんとかリニューアル工事を1週間で着工できないか?”
“今回緊急発注したインバーターを使い回しして、インバーターを除いた
リニューアル工事は可能か?”
等今となってはとても要望に応えられないリクエストなのですが、ここまでの惨事になると予想、想定する事は出来なかったのでしょう。こちらも、このような事態を回避する為にはどういった取り組みをするべきだったのか大いに反省するべき課題だったと未だに思い出されます
今回紹介した事例は私がエレベーター会社に在籍していたころのエピソードです。このブログを読まれている皆さんはこういった状況に陥る事はないと思います。しかし、保全管理を軽視しひとたび事が起こってしまってからではもう取り返す事ができません。
今一度、意識を高めて私と一緒に取り組んでいきましょう。