見積書の後半部に“所有者、管理者向け連絡事項”と記載
見積工事範囲を表す“除外工事”とは別項目で“注意事項”あるいは“連絡事項”と括られた説明文があります。内容はほぼ、どこのエレベーター会社も同じなのですが、言い回しや表現の仕方、ボリュームが会社によって違いがあります。傾向としてメーカー系保守会社はかなり詳細に記載しているのですが、独立系保守会社はシンプルにあっさりとした内容の印象を受けます。共通しているのは“既存不適格の扱い”について、所有者と管理者は誤解のないように理解してくださいといった内容となります。
既存不適格については、過去のブログで幾度も取り上げてきましたが、リニューアル工事で、最新の基準に準拠した仕様として見積に盛り込んで、既存不適格をなくしてしまうのか、価格優先で必要最小限の目的である保守部品供給生産停止の対応に絞った仕様とするのかの選択になるのですが、その事についてそのエレベーター会社がどこまで重要視しているのかで記載の仕方が分かれているように思われます。
建築基準法関連 既存不適格についての記載項目
・建築基準法改正(2009年9月28日施工)に関する「戸開走行保護装置(UCMP)」は含まれておりません。
リニューアル工事後の定期検査において引き続き「既存不適格」の判定を受けますので予めご了承ください。
・平成26年4月、建築基準法の一部改正が施工され、下記の新しい基準が設けられております。
戸開走行保護装置(UCMP)の設置、P波感知器地震管制運転装置(予備電源装置付)、安全性耐震性を高める構造装置の追加。
・貴昇降機が現在指摘を受けている「既存不適格」の内、別紙内訳書に記載のない工事項目につきましては工事完了後の定期検査において引き続き「既存不適格」の判定を受ける可能性がございますので、合わせてご了承ください。
・「既存不適格」は遡及される事はございませんが、「建築物や建築設備が現行の法令に適していない」という事を示すものであり、「違法」を示すものではありません。
・本見積の内容で改修工事を行いますが、定期検報告書の「既存不適格」の判定は残ります。
・一部、既存不適格事項が残ります。本書仕様では機械室内機器類の耐震対策(転倒防止等)を実施しますが昇降路などの新法(14耐震)に準拠した耐震対策は含まれておりません。
・建築基準法施行令関連事項【重要】
下記法令改正項目で本見積書に記載のないものについては、リニューアル工事実施後の定期検査等にて「既存不適格」の判定を受ける可能性がありますので、予めご了承願います。
その他現行法不適合事項につきましても、本見積書に工事内容の記載がないものにつきましては、リニューアル工事実施後の定期検査等にて「既存不適格」の判定を受ける可能性があります。
平成26年4月1日建築基準法施行令改正内容
地震その他の震動によって釣合い重りが脱落するおそれがない構造の規定追加
地震その他の震動に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の規定追加
荷物用、自動車用エレベーターの適用除外規定の変更
平成21年9月28日建築基準法施行令改正内容
戸開走行保護装置(UCMP)の設置
安全性:耐震性を高める構造・装置の追加
P波感知式地震管制運転装置(予備電源付)の設置
最新の法令については「昇降機技術基準の解説 2026年版」に基づき内容判定を行います。
・定期検査における「既存不適格」判定について
建築基準法には「既存不適格の原則」が定まられており、法令が改正されたとしても法改正時点における既存の建築物(昇降機含む)に対しては「最新法令」の規定が及ぶことはございません。
ただし、建築基準法第12条に定める「定期検査」においては、既存の昇降機においても最新法令と照らし合わせて判定を行う為、法令の改正があった場合は、新しい法令による規定から外れる項目については「既存不適格」との判定がなされます。
「既存不適格」とは、現時点での建築物や建築設備が最新法令に適合していない状態を示すものであり、「違法」を示すものではありません。
したがって法的な改善義務が生じるものではございません。
改修内容が大規模な改修(現在の用途から変更する等の工事)となる場合には、確認申請手続きが必要となります。
その場合には「最新法令」が適応されその時点での既存不適格のすべての是正が必要となります。
既存不適格をどう扱うか?解消は必要か?
似たような表現が繰り返されていますが、要は建築基準法上で最新の基準とするには、リニューアル工事でしかるべき仕様にする必要があるが、見積に含めますか?含めませんか?含めなくても法律違反ではありませんが、年に1回行政に報告する定期検査報告では基準を満たしていない判定となり“要是正”となりますが、“既存不適格”の扱いとされ、従来通りで問題はありません。しかし、リニューアル工事のタイミングで現行の基準に準拠したエレベーターにした方が、安全性が高くなるのでどうされますか?あくまで、どうするかの判断は所有者責任なので間違いのないように検討して指示してください・・・。
こういった文言が見積書の目立たない箇所にびっしりと記載されていていますが、見積金額総額の高い、安いやそれぞれの会社のPRで説明の大半が費やされ、こちらから質疑をあげないとこの箇所の説明はスルーされてしまっているのが実情です。
しかしながら、まじまじと細かく読んでいくとかなり重要な内容であり、きちんと把握するべき内容である事は間違いありません。
部品供給の問題、安全性、利便性のグレードアップ、意匠性による見栄え、資産価値の向上と定期検査項目に絡めた既存不適格をどうしていくのかについて、それぞれのエレベーター会社の説明と第3者としての意見を合わせて検討される事をお勧めします。