
正しい情報収集から、正確な認識で検討、判断しましょう
例の神戸三宮で発生したエレベーター事故から約2週間近く経過しましたが、未だに事故原因については判明していません。
通常ではエレベーターのかごが無い位置で乗場側扉が開いている状態になる事は機構、構造上ありえないのですが、今後は国土交通省の昇降機事故調査委員も検証に入り、徐々に詳細が明らかになるでしょう。今は、調査報告を待つ以外ありません。
一部の報道では、設置から48年経過しているエレベーターなので、最新の安全装置が装備されていなかったのが、原因ではないのか?と揶揄された表現が見受けられました。そこで紹介されていたのが“戸開走行保護装置”という、いわゆる、エレベーターの扉が開いている状態でかごが動き出さないように、制御とブレーキシステムの2重化を図った装置なのですが、2009年に新規設置されるエレベーターには装備が義務付けられている安全装置になります。
過去のブログでもこの“戸開走行保護装置”についてリニューアル工事のオプション工事としてであったり、補助金申請の必要条件となっている点であったりと、幾度と紹介していますが、改めてより詳しくその設置義務となった経緯から、安全システム概要にいたるまで解説紹介したいと思います。
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戸開走行保護装置設置義務化の経緯と理由
エレベーター業界で過去に最も大きなインパクトを与えた事件が、2006年に東京で発生したエレベーターによる挟まれ事故でしょう。
自転車と一緒にエレベーターに乗り込もうとしたところ扉が開いた状態でエレベーターが上昇して、エレベーターの床と出入口上部の壁に挟まれてしまった痛ましい事故です。
約10年後になってようやく、事故原因についてはブレーキの異常摩耗によるブレーキ保持力の急激な低下によるものとされ、ブレーキそのものの2重構造と、通常の制御回路とは別に、もう一つの別回路により通常回路が何らかの事由で不具合発生、不能となっても緊急停止させる2重安全装置です。
国も新規設置エレベーターについての戸開走行保護装置義務と合わせて、製造会社から、安全にかかわる重要な事項については保守マニュアルの情報開示であったり、必要な安全技術研修も行われるようになり、定期検査報告についても戸開走行保護装置についての項目が追加されたり、ブレーキに関する制御リレーの耐用年数についても検査指摘項目に加えられたりと、国、業界あげて安全に対しての取り組みが大きく拡大した経緯になります。
戸開走行保護装置義務化の経緯から、対象となるエレベーターはあくまでロープ式のエレベーターになります。油圧式エレベーターは構造からブレーキに関する機構そのものが根本的に違うため、一部を除いて普及していません。
新規設置の義務化についても、2009年度以降は主流がエレベーター機械室のいらないロープ式のマシンルームレス型に移行していたのでメーカーでも油圧式の戸開走行保護装置は開発される事無く、経年劣化、部品供給停止のタイミングでロープ式に入替工事が進んでいる状況です。
ロープ式のエレベーターはすべて、人が乗るかごの対面に錘が巻上機の滑車を挟んで釣瓶となり、バランスをとって昇降しています。すべてのエレベーターは最大積載量が設定されていて、最大積載いっぱいに乗り込む以外、錘側に引っ張られる為、かごは上昇するケースが多くなります。
その為、かごが目的階に着床して扉が開いていている時はブレーキをかけてその状態を保持しなければなりません。その力は重りの重さとかご自重で1t近くになり、相当なブレーキの開閉制御と制動、保持力が必要になるのです。
義務化以前は一つの制御とブレーキでしたが、それを2重化する事により未然に戸開走行を防ぐシステムを各メーカーや独立系保守会社でも制御リニューアルの製品認定を国土交通省から得てリニューアル工事のオプション仕様として販売しています。

戸開走行保護装置のシステムについて
平成21年9月28日 建築基準法施工例の一部改正として戸開走行保護装置は、従来のブレーキとは別にワイヤーロープあるいはブレーキディスク等のブレーキと通常の運転制御回路から独立した異常検出システムによって万一の故障に備えるシステムです。
エレベーターの扉が開いた状態で動き出した場合に、即座に検知し
かごと床の間が1m以上開いているうちにエレベーターを制止させます。
以下戸開走行保護装置発動フローになります。
- かご戸、乗場ドアスイッチが扉の開閉状態を検知
- 特定距離検知装置が、かごの移動を検知。出入口乗場の床面からかごが扉を開けた状態で一定距離を移動したときを検知
- 戸開走行保護装置が扉を開いたまま、かごが動いたことを検知し、2重ブレーキを作動させる。
- 通常のエレベーター運転制御回路から独立した制御回路で戸開走行を検知し2重ブレーキを作動。
- 2重ブレーキがかごを緊急停止させる。
戸開走行保護装置 システム構成
- 制御判定回路
運転制御回路及びブレーキの故障と戸開走行を検出しかごを停止させる独立した論理的判定装置。
- 巻上機2重ブレーキ化
機械的に独立したブレーキ装置により、万が一片方のブレーキが故障したときにもう一方のブレーキ装置で制
動力を確保し戸開走行他エレベーターの異常を検出した際に確実にかごを停止させる。
- 特定距離感知装置
かごの停止位置がドアゾーンから著しく移動した状態をかご上及び昇降路に放置した特定距離感知装置で検出
し判定回路によりかごを停止させる。
- かご、乗場扉ドアスイッチ
かご及び乗場扉に放置したドアスイッチで扉の開いた状態を検出し、判定回路によりかごを停止させる。
- ブレーキモニタリング装置
ブレーキ装置のプランジャークリアランスをモニタリング装置でブレーキ動作の状態を検出しブレーキが故障
した場合に判定回路によりかごを停止させる。

戸開走行保護装置を設置するか、しないか?
設置から30年以上経過していて、今回のリニューアルで制御盤と巻上機も交換する場合、修繕積立金等の予算に若干でもゆとりがあるならば、設置を推奨します。エレベーター会社により金額はマチマチですが、戸開走行保護装置のオプション追加金額は100万~250万になり、オプション工事で最も高額な部類に入ります。エレベーター会社や機種により戸開走行保護装置が設置できないケースもありますので見積依頼時に確認が必要になります。
メーカー系保守会社では、巻上機を交換すると標準仕様で戸開走行保護装置が組み込まれているので、他社との見積比較時にその分を勘案する必要があります。
エレベーターの設置環境、利用状況、将来の資産価値、予算との兼ね合い、管理組合の安全志向性により総合的な判断となりますので、エレベーターマネージメントではあらゆる角度からの助言、サポートの用意があります。
初回相談、現地調査訪問は無料(近畿2府4県に限ります)